珍しい名字のR君
2024年9月、私の携帯に一本の電話がかかってきた。女性の声で「子どもが空手をやりたいと言っていて、そちらに見学に行ってもいいですか」という内容。もちろん承諾し、念のためお名前を聞くと実に珍しい名字だったので、その電話は私の記憶に留まることになった。
見学に来たのは男の子R君で、見学時点で保育園年長さん。その日は見学し、少しミット打ちも体験して帰ったが、楽しかったらしく、正式に闘気塾西都の仲間になった。
試合に出たいR君
仲間になったはいいものの、基本稽古や型をさせてもイマイチ身が入らない様子。入ったばかりのうちは組手稽古もさせられないので、まずはミット打ちで基本的な動きから。ところがそちらもどことなく身が入らない。私は『まぁ入ったばかりだし、なにせまだ年長さん。気長にさせてみよう』というスタンスだった。
しばらくはそんな調子だったが、半年ほど経ったある日R君は「組手の試合に出てみたい」と言い出した。まだきちんとした組手稽古もやれていない頃だったので、私は少し驚いた。
フルコンタクト空手の試合は激しい。過去にはあまりの激しさに、自身の子どもが試合をする姿を見て泣き出した親御さんもいたほど。なので、私はR君に「一度試合を観に来て」と勧め、実際に試合を見学させた。
『試合を観たR君はドン引きするかもしれない』などと想像していたが、R君は「やっぱり試合に出てみたい」と言い、そこからR君の本格的な組手稽古が始まった。
試合に向けて
主な練習相手は、1学年上で試合経験もあるA君。最初は経験で上回るA君にやられるR君だったが、意外にも負けず嫌いを発揮して想像以上に健闘する。初めて人に殴られ、蹴られることを経験するため、私は泣きじゃくる姿を想像していたが、記憶によると結局これまで組手稽古中に泣いたのは一回だけだった。
また、試合を頑張りたい人を対象にした練習“コンペティションクラス”にも参加しはじめ、他の道場の人達とも練習した。
練習を重ねるうちにコツを掴んできたR君。中段回し蹴りや上段回し蹴りは上手に打てるようになった。要所要所できちんと負けず嫌いを発揮し、『Rは経験を積めば強くなるだろう』と想像させた。
そのうち、デビュー戦にちょうどいい大会の案内が届き、R君の出場が決まった。試合の日まで練習試合やスタミナ強化練習など重ね、本番の7月21日を迎えた。
いざ本番
思ったほど緊張もなさそうで、肝の太さを見せるR君。指導員たちの音頭で準備体操やウォーミングアップをする。
そしていよいよ出番。今回は、セコンドは指導員たちに任せ、私は指導者席からR君を見守る。選手呼び出しに応じて堂々とした姿でコートに入るR君。目の前にいる私と目が合い、私は『頑張れ』という気持ちで小さく頷く。いざ試合開始。相手は同じくらいの体格で、同じ白帯さん。相手にとって不足なし。
R君は審判の「はじめ!」の合図と同時に相手に向かっていき、強烈な中段回し蹴りを浴びせる。相手の選手も負けずにパンチを打ち込んでいく。R君の蹴り、相手選手のパンチという試合構図になる。
どちらも一進一退で、本戦は引き分け。延長戦もほとんど互角の展開だが、最後はスタミナ勝負となる。両者スタミナがなくなっていきながら最後まで打ち合ったが、ほんのわずかに相手選手の手数が上回って、R君のデビュー戦は惜敗という結果になった。私は正直、R君がデビュー戦でここまでできるとは思っていなかった。格闘技の試合は、実力の半分も出せればいい方だが、R君はしっかりと実力を出していた。
悔しさのその先
自陣に戻ったR君を見ると、顔には大量の涙。「試合どうだった?」と聞くと「…悔しかった」と。涙を流すほど悔しいと思えることが素晴らしい。その意味で、R君のデビュー戦はいい経験になった。
R君の敗戦直後、次の大会の案内が届いたことを道場の人たちに知らせると、早速R君の出場希望が。
素晴らしい。この調子なら、R君はこれから様々なことに挑戦し、どんどん成長してくれるだろう。
そして私は、R君たち道場生が様々なことに挑戦できる環境を整えて、道場生らの成長を見守りたい。


