格闘技でたまに見かける逆転勝利。そして格闘技の逆転勝利は、観ている人を例外なくアツくさせる。
少し前に行われた、ボクシングの井上尚弥選手とルイス・ネリ選手の試合。井上選手は1ラウンド目にネリ選手のパンチをもらって、キャリア初のダウン。しかしすぐには立ち上がらず、冷静に回復を待って立った。その後もしばらくは自分のダメージを確認するかのように、ディフェンスしながら動き、徐々に反撃を開始。2ラウンド目に最初のダウンを奪ったのを皮切りに、その後何度かダウンを奪い、ついには6ラウンド目にTKO勝利した。
さらに井上選手は次戦のラモン・カルデナス戦でも、同様に先にダウンを喫しながら、冷静にダメージを回復し、最終的にはTKO勝利をもぎ取った。
格闘技は逆転勝利が難しい
格闘技は逆転勝利がとても難しい(と思う)。闘気塾日記で度々触れているが、格闘技はたった一人で相手と殴り合い・倒し合いをする。もちろん、励ましてくれるセコンドは近くにいるわけだが、マットやリングの上で戦うのは自分一人。そのプレッシャーはかなり強い。程度の違いはあるだろうが、強いプレッシャーがあることはプロであろうとアマチュアであろうと一緒だろう。
その強いプレッシャーの中、例えば相手の攻撃をもらってダウンしてしまう。空手で言うと、技有りを取られてしまう。柔術で言うと、ポイントを取られてしまう。その時、心の中は『あぁ…もうダメだ』となってしまってもおかしくない。
実際、格闘技における逆転勝利というのは、そんなにしょっちゅう起きない。これは、上記のように心が折れかかっている状況で逆転するのはほぼ不可能ということもあるし、相手が自分の優勢な状況を保とうとディフェンシブになっているということも考えられる。ゆえに、格闘技における逆転勝利はそんなに起きない。
しかし、それがたまに起きるからすごい。いや、逆転勝利を起こす人がすごい。
ということで、いくつか衝撃的な逆転勝利をご紹介。
鋼のメンタル、ヒョードル
2003年に行われた総合格闘技イベント“PRIDE.26”のエメリヤーエンコ・ヒョードル氏vs藤田和之氏の試合。
途中、藤田氏の右フックがヒョードル氏のこめかみにヒット。ヒョードル氏は明らかに効いていて、操り人形のように脚がグラグラ。藤田氏は追い打ちをかけようと攻勢に出るが、ヒョードル氏がなんとか組み付く。ここで藤田氏がタックルでヒョードル氏を倒すも、これは判断ミス。藤田氏は倒したはいいものの、体力を消耗していたのか何もしなかった。いや、ヒョードル氏に動きを制されていた。その間にヒョードル氏は回復。回復したヒョードル氏は反撃に出て、逆に右フックと左ミドルキックを叩き込みダウンを奪い、バックをとってチョークで首を絞めあげて勝利した。
会場は大盛り上がり。私はテレビの前で大興奮。さすが鋼のメンタルを持つヒョードルという衝撃的な試合だった。
冷静さが呼んだ逆転劇
2025.2.24に行われたボクシングの世界戦、無敗の王者・堤聖也氏vsハードヒッターの挑戦者・比嘉大吾氏の試合。
試合は予想通り、堤氏の細かく手数の多いパンチと比嘉氏の強烈なパンチの応酬。9ラウンド目、比嘉氏の左フックが堤氏の顔面にヒットし、堤氏がダウン。堤氏はこれがキャリア初のダウンという。
冷静に回復を待って立った堤氏に、比嘉氏は追い打ちをかけようとパンチを強振する。しかし、ここで堤氏のカウンターの右ストレートが比嘉氏の顎を打ち抜き、比嘉氏は前につんのめるようにしてダウン。すぐに立ち上がる比嘉氏。そこからは互いに一歩の引かない打ち合いが展開され、結果、堤氏の判定勝利となった。
キャリア初のダウンで、本来なら焦っていてもおかしくない状況だが、堤氏の冷静さが逆転勝利をもたらした。比嘉氏は、ダウン後は記憶がなかったらしく、インターバルの度に“自分は誰と試合しているのか”をセコンドに問うていたという。
格闘技における逆転劇はあまり起きないが、こんな感じで観ているものをアツくさせることがある。
それはまぎれもなく、どんな状況でも諦めない選手の不屈の闘志によるものだろう。すごいの一言に尽きる。


