~前回からの続き~
今まで組手が苦手だった闘気塾西都のユーゴ。2025年10月11日に行われる大会で、初めての組手の試合に挑戦することが決まり、そこからキツくてツラい練習が始まった。
腹を括る
ユーゴはもともと器用な子で、入ったばかりの頃は組手も上手にこなせていた。蹴りが得意で、上段回し蹴りは最初からきれいにできた。しかし、いつの頃からか組手に苦手意識を持っていた。
試合の約一か月前、試合に出る子たちで道場内の練習試合を行い、ユーゴは親友のMと組み合わせた。
Mはユーゴより体が大きいため、私は念のためユーゴに「Mと練習試合やる?」と聞くとユーゴは「やります」と答えた。試合に向けて覚悟を決めているようだ。
しかし実際に練習試合をやってみると、まだまだ打たれることに苦手意識はあるようで、いまいち攻め切れない。自分の突きが当たる距離は相手の突きも当たる距離だから、突きを出すのがまだ怖いのだろう。蹴りは多少出るが、突きが出ない。
「ユーゴ、君は突きも上手なんだから、自信を持って腹に力を入れて勝ちに行く組手をしなさい」
私はそう励ました。ユーゴはそこから少しずつ突きも出すようになった。組手練習のたびに少し緊張した面持ちを見せながら、苦手な組手練習を繰り返す。歯を食いしばって年上の道場生との練習試合にも挑んだ。勝ちに行くためのキツいラッシュ練習にも頑張って取り組んだ。
その日々は、組手が苦手なユーゴにとってはツラかったと想像する。しかし、苦手克服を乗り越えるために腹を括ったユーゴは、弱音も吐かずに懸命に練習を重ねた。
加えて、型の試合にもエントリーしているため、毎週水曜日に行われる“型コンペティションクラス”も欠かさず出席し、型練習もがんばった。
それでも試合直前の練習では、「今回は組手の試合もあるもんなぁ…」と憂鬱そうな顔を見せ、プレッシャーと必死に闘っているようだった。
いよいよ試合
試合当日。
母、妹、弟と一緒に会場にあらわれたユーゴは、若干緊張した面持ちながら、雑談もするなど思ったよりはリラックスしているようだった。
まずは型の一回戦。相手は前回の優勝者。ユーゴは型コンペティションクラスで頑張って練習した慈恩を披露。今までで最も素晴らしい型を披露したものの、惜しくも敗退。頑張って練習してきただけに悔しそうなユーゴだったが、組手の試合が控えているため、気持ちを切り替える。
いよいよ組手試合。
相手は私も知っている子で、体格も大きく試合経験もたくさんあって強い相手だ。そのため、ユーゴと“横に動きながら上段蹴りを狙っていく”という作戦を立てた。
試合開始。
ユーゴは意外なほど冷静に作戦通りに動き、突きで相手を牽制しながら、横に移動して攻撃を繰り返す。途中、惜しい上段蹴りが何度かあったが、結局相手選手の顔を捉えることはできなかった。
それでも強い相手と互角に渡り合い、試合は判定へ。私は『引き分けか』と思ったが、無情にも旗は相手選手に上がった。
ユーゴの頼もしい姿
控え場所に戻ったユーゴ。私は痛さやプレッシャーとの闘いで泣きじゃくるユーゴの姿を想像していたが、実際は真逆で、本人はどこか晴々とした表情をしていた。それは、勝敗を超えて、自分の苦手なものに立ち向かい、プレッシャーという壁を乗り越えたからこその、達成感と安堵感の表情だったのだろう
「想像していたよりも7倍くらい、いい試合をしたよ」
私がユーゴにそう声をかけると、お母さんが笑顔で「本当に」とユーゴを褒める姿が印象的だった。
武道は他人ではなく自分との闘い。ユーゴはこの一戦で、『自分自身への勝利』を手にした。この経験が、これからの彼の人生を支える確かな自信となるだろうと確信している。
ユーゴのお母さんが帰り際、「ユーゴの妹と弟も空手をさせようかと考えています」と。
妹と弟が一緒に空手をするようになれば、ユーゴはお兄ちゃんとして、そして先輩としてカッコいい姿を見せてくれるはず。
これからのユーゴの成長が楽しみだ。
<今日の道場生の一言>
ユーゴ「先生、あんこは“こしあん派”ですか、”つぶあん派”ですか?」
私「あ~どっちかというと、“こしあん派”かな」
ユーゴ「そうなんですか。僕はあんこが嫌いです」
私「じゃあなんで聞くねん…(´・_・`)」


