めったにない飛び帯
闘気塾の級・帯は、無級の白帯からスタートして10級・9級が橙帯、8級・7級が青帯、6級・5級が黄帯という具合に級2つごとの帯色になっている。大体の道場生は、10級から8級、8級から6級という具合に飛び“級”をして順調に新しい帯に上がっていく。しかし、稀に飛び“帯”までする人がいる。無級の白帯から橙帯を飛ばして青帯になるという具合だ。
私が受け持つ道場では飛び帯はあまりない。なぜなら、飛び帯するには色々とクリアしないといけないことがあるのと、普段からの練習態度や出席率が大きく関わるから。しかし、私は道場生を評価する際、組手の強さや試合の結果などは重視しない(試合の出場回数は多少考慮する)。その意味では、誰にでも飛び帯するチャンスはあると言える。
性格の優しいS
2024年12月、年に一度の級・帯授与式。ある男子道場生が飛び帯をした。現在、小学4年生のSだ。
Sは、小学3年生に上がる直前から闘気塾で妹と一緒に空手を始めた。Sは優しい男の子で、常に妹を気にかけている。自分を主張することもあまりせず、積極的に仲間に話しかけることもしないが、話しかけられるとはにかむような笑顔を向ける子だ。
Sが道場に入った頃、私はSが組手稽古に耐えられるか心配であった。優しいSなので、それまでパンチや蹴りなどとは無縁。水泳をしていたので比較的スタミナはあるものの、ミットなどを打たせてもなかなかコツを掴めない。組手稽古をさせると案の定、相手に押し込められる状態。時には痛い思いをして涙を流すことも。
ただ、Sはいつも真面目に練習した。なかなかうまくならなくても痛い思いをしても、ひたすら真面目に練習した。火・木・土の練習にはいつも参加し、出席率も高かった。
少し驚いたのは2023年12月頃、組手大会の出場申込書を持ってきた時だった。優しい性格からか、なかなか組手に強くなれないSが心配だったが、『これも勉強・経験』と思い、デビュー戦となるこの大会に出場させることにした。
大会当日、試合会場の熱気に若干気圧されているSだが、意外に落ち着いていた。いざ試合。初めこそ相手の勢いに飲まれたものの、スイッチが入ってからは相手を押し返す場面もあり、本戦は引き分け。延長戦でも互角の戦いを演じたが、結果は惜敗となった。正直、私は驚いた。あのSが形相を変えて必死になって堂々と戦っていることに、驚くと同時に頼もしさも感じた。
その後、Sは何度か試合を経験した。型の試合にも挑戦し、型の才能があることを気付かせてくれた。いずれの試合もいい結果とはならなかったものの、諦めない姿には感心するばかりだ。
嬉しい昇級と飛び帯
2024年11月10日、闘気塾西都の昇級審査会。そこには初めて審査を受けるSの姿があった。昇級審査はSのような真面目に練習した子が力を発揮する場。Sは基本稽古や型など、いずれの項目でも高い点数を獲得した。
そして12月の級・帯授与式。
Sに免状を渡す際、「8級に列す」ことを告げ、青帯を渡す。白帯から青帯への飛び帯に嬉しそうなSの表情。なかなか試合ではいい結果が出ていないSに、無事に努力の証を渡せたことに私も安堵した。
空手は武道であると同時に格闘技でもある。それは人と戦うことを求められ、そしてそこには大きなストレスがあることを意味する。Sのような性格の優しい子にとってはなおさらのことだ。
しかし、空手には級や帯という努力の証が存在するのが救い。性格の優しい子でも組手がうまくできない子でも、空手の中に何らかの楽しみを見つけ、努力し成長につなげてもらえると、私も嬉しい。
Sにはこれからも空手を楽しんでほしいと願う。
