ストイックな女性
闘気塾西都にはストイックな女性がいる。詳細は伏せるが、音楽関係の仕事をしている人で、生徒の指導、演奏などの仕事をフリーでしている。音大を出て海外に留学したこともある”ほんまもん“の音楽家だ。女性は以下Yさんとする。
Yさんは2022年のある日、闘気塾のHPを通じて「見学に行きたい」と連絡してきた。私はてっきり『子供さんにさせるためかな』と思ったら、「私自身が興味あります」とのことだった。そこから空手を始め、現在2年3か月ほどの空手歴だ。
Yさんがどうストイックかというと、空手の練習が終わったらすぐに帰って生徒のレッスンをし、そのあとにジムに行ってトレーニングをする、という感じ。ジムへは週5回くらい行き、8キロ走っているとのこと。
40歳を超えると多くの人は体がたるんできて脂肪も多くなってくる。ましてや女性は筋肉量が少ない為に、その傾向は男性より強い。しかし、Yさんはまったくそんなことなく、非常に引き締まった体をしている。(あ、誤解のないように言っときますが、女性の体をジロジロとみているわけではありません。格闘技は接触競技なので、男女問わず組手・スパーをするとその人がどういう体つきか必然的に分かります。そしてそれによる下心などもまったくありません)
Yさん初めての試合に向けての日々
そのYさんが、初めての型の試合に出場しようか検討した。その試合の日は、地元の学校の運動会の日と重なっており、他の道場生たちは試合に出場することができない日であった。初めての試合で仲間がいないと心細いだろうと思い、私がその旨を伝えるとYさんは「そこは大丈夫です。出場すると決めたら自分との闘いなので」と返してきた。そして、日程の調整などを行い、出場を決めた。
どの型で出場するか相談し、当初は「撃砕小」という型にしたのだが、Yさんは次の練習時にはすでに撃砕小の挙動をほぼ覚えてきた。私は『これならもっと難しい型でもいける』と思い、Yさんに提案し、難しい型である“征遠鎮”で出場することにした。征遠鎮は、挙動が多い上に立ち方が難しい型。さらに、何と言っても緩急をつけるながら姿勢をピタリと維持するのが最も困難。全体的に難易度が高い型だ。それだけに、完成度を高めることができれば非常に見栄えのする型でもある。
征遠鎮の練習を重ねるYさん。挙動は比較的早く覚えたものの、やはり立ち方や緩急のつけ方、そして姿勢の維持に苦労する。下半身の筋肉痛を繰り返しながら、鏡で自分の挙動や姿勢を確認し、何度も何度も練習する。形がある程度出来上がった段階で、今度は気迫を込める練習をする。普段慣れていない気迫の顔の作り方、声の張り方なども練習する。通っているジムのオーナーや仲間たちの前で披露する機会も得て、試合に向けて集中力も鍛錬する。こういった鍛錬を黙々と重ね、完成度を可能な限り高めたYさん。
いざ本番
そして10月12日、試合当日。空手の試合会場に入ることすら初めてのYさんは緊張した面持ち。
一回戦、相手は友好道場所属の方。Yさんは若干姿勢を崩したものの、集中した姿で気迫を込めて型を披露し、勝利した。そして決勝戦。一回戦での修正点を頭に入れて、最高の型を披露。私は勝利を確信したが、旗は相手側に上がった。Yさんの初試合は準優勝という素晴らしい結果で終わった。
試合後のYさん、「緊張したけど楽しかったです」と。さらに翌日。「次、型の試合はいつですか?県外でもあるんですか?日程が合えばまた出てみたいです」と。またさらに翌日には「先生、せっかく鍛えた下半身を維持したいんですけど、自宅でできる練習法はありますか?」と。なんと頼もしい。やはり常に自分と闘い続けている人だ。
次回の試合が楽しみ。
