~前回の続き~
昨年の全国大会で実力を出し切れず悔しい思いをした女子中学生のM。リベンジを果たすため、時に涙を流しながらこの一年間様々な準備をしてきた。そして迎えた2024年12月22日の全国大会。
いよいよ会場へ
前日に大阪入りしたM。大阪は宮崎より寒い。しかも大会会場のある難波は今年も強風。Mに風邪の具合や体の調子を聞くと、鼻声で「う~ん…まぁ…」と。どうやら完治してはいないようだ。しかも、左手親指は練習時に突き指をしており、それも痛むという。
試合当日。10時から開会イベントが行われ、今格闘技界を賑わせている宮崎出身のYURA選手や、K-1チャンピオンの与座優貴選手など、有名選手が会場に花を添えてくれる。
Mの試合は70試合目。長い待ち時間を過ごすことになるが、空手を通してつながった大阪の友達がMの応援に駆けつけてくれ、リラックスに一役買ってくれた。
出番を待っている間、月曜コンペティションクラスでともに汗を流してきた仲間K君の試合を観戦。K君は、一回戦は勝利したものの、二回戦で敗退。正直、私は「勝った」と思ったくらい、K君はいい試合をした。しかし、出てしまった結果はどうにもならず、K君は涙を流す。
昼になり、Mはゆっくりとストレッチを始める。徐々に緊張感が高まってくる。
シャドーからウォーミングアップを始め、突き、蹴りの打ち込みを行い、体を温めていく。そして私との模擬組手。突きの威力も申し分なく、この日のために今まで練習を重ねてきた技もキレキレで出ていた。
そしていよいよ試合マット内に入る。昨年、出場選手たちが滑りに滑っていたマット。Mの得意な蹴りを出させてくれなかった滑るマット。今年はどうか…やはり滑る。Mは、同じ大会に来ていた知り合いの選手から聞いた“試合直前に濡れタオルで足裏を拭く”という対策を実行し、呼び出しに応じてマット上に立った。
相手はMより大きい選手。しかし、コンペティションクラスで下半身を強化してきたMなら十分対抗できるはず。そして、試合時間1分半を30秒ずつに区切って、“最初の30秒は相手を見ながら技有りを狙う”という作戦で試合に臨む。
今年も滑るマット
試合開始。作戦通り最初は得意の蹴りで技有りを狙うも、詰めてくる相手との距離が合わず、転倒するM。なおも距離を詰めて“押し相撲空手”を仕掛けてくる相手に、Mはなかなか手が出ない。押し相撲を仕掛けられると、体が小さい方は圧倒的に不利。加えて、濡れタオルで足を拭く対策も空しく、マットが滑って押されてしまう。
しかしこの大会は、【下がりながらでも有効打を打った方、手数を出した方が勝利】となるルールだ。次の30秒。Mは時折下がりながらも徐々に手数を増やしていく。それにつれて、相手の手数は減っていき、押し相撲しかできなくなってきている。
最後の30秒。押し相撲ばかりの相手に、Mは蹴りを捨て、突きの手数勝負に出る。手数を最大限に増やしてラッシュ。相手は押すばかりで手が出ていない。ここで、両者決め手がないまま試合終了。
私は『最初こそ押されたものの、手数を出していたのはM。最悪でも引き分け』と考えていた。判定の結果、0-3で相手の勝利。呆然としてしまう私。Mは気丈に相手にお礼を言い、マットを降りた。
“これが最後の挑戦”と決め、一年間この大会に照準を合わせて努力を重ねてきたM。試合直後は気丈に友人や私と会話していたものの、やがて悔しさがこみ上げ、壁に頭をつけて涙を流し始めた。
その姿を見ながら私は、『Mはしばらく受験勉強に専念するだろう。そして4月からは高校生。空手を続けたとしても、なかなか練習に来られない日が多いだろう。Mの雄姿と涙も今日が最後になるかも』などと考えていた。
まだまだある笑顔と涙
保育園年長から闘気塾で空手を始めたM。それから9年半の間、母親に「ちゃんとやりなさい」と怒られ、涙を流した。試合に負け、たくさんの涙を流した。自分の思うような動きができずに涙を流した。たくさんの挑戦とたくさんの笑顔、そして、たくさんの涙で築かれたMの空手。
私はMに成長の場を与えられただろうか。これから歩む長いMの人生に対して、どれほど良い影響を与えられただろうか。いや、Mならきっと大丈夫。今度はMが周りに良い影響を与える、周りを笑顔にさせてくれる、そんな大人になってくれると信じている。
試合後、道場の連絡用LINEに、仲間に向けてお礼を言うM。「本当はこれが最後の予定でしたが、リベンジ目標でこれからも頑張ろうと思います!」との一文が。
いや~すごい。根っからのファイターは転んだままではいない。これは来年も大阪に来ることになるな。そして、Mの笑顔と涙は今回で最後ではなく、まだまだあるな。
来年も闘気塾全員で精一杯空手を楽しもう。
今年一年お世話になりました。来年も闘気塾をどうぞよろしくお願いいたします。