全日本王者の視点

全日本王者の視点

あ~…腰が痛い。痛すぎてついに…コルセットを買ってしまった。
子供の頃、祖父がコルセットを装着していて、それから高齢者が着けるイメージがあったコルセットちゃん。それを自分が着ける日が来るとは。いい歳したおっさんが、無理して毎日格闘技ばっかりやってるからこんなことになる。いい加減にしろと自分に言いたい。

コンペティションクラス
闘気塾西都では、月曜日に友好道場とともにコンペティションクラスを実施している。試合に向けたフィジカルトレーニング、実戦稽古を行うクラスだ。そのクラスに来る友好道場所属のLちゃんとR君がいる。2人とも小学3年生であり、闘気塾西都の同学年・同体格のAとともに、3人は良きライバルとして高め合っている。
2024年7月28日、宮崎市のひなた武道館で地方大会が行われ、上記の3人ともが出場。コンペティションクラスの練習の成果が試される大会となる。

Lちゃんの初戦
Lちゃんの初戦。相手は全国大会に出場するような強者で、Lちゃんは過去何度かこの相手と対戦したが、いずれも勝利したことはなかった。
試合開始。相手は得意の前蹴りを中心にどんどんLちゃんを攻めていく。Lちゃんが攻めようとすると、相手は回転技で倒れ込んで「待て」がかかる。私は『Lちゃんは攻めにくそうにしている。打開するための糸口はないか…』という思いで観戦していた。ここで、Lちゃんの道場の師範代。「足を攻めろ!中に入って足を攻めろ!」と指示。Lちゃんは相手の前蹴りをディフェンスしながら、すぐに中に入って足を攻める。相手もさすがで、中に入られたらパンチの連打で押し返していく。そして判定は…引き分け。延長となった。
延長戦。師範代は引き続き、「足を攻めろ」と指示。Lちゃんはこの指示を受け、終始下段回し蹴りで攻め続ける。見事な接戦で、周りも大盛り上がり。そして延長戦判定。ついにLちゃんはこの相手に勝利した。
おそらく師範代はLちゃんのディフェンス能力なら大技をもらうことはないこと、そしてパンチの勝負なら互角と判断した。その上で、相手が大技で来るなら、それより回転の速い下段回し蹴りで攻めれば手数で上回ることができると判断して指示を出し、勝利を得る事が出来たものと思われる。

R君とAの試合
そしてR君とA。2人は同じカテゴリーに出場。勝ち進めば2人が対戦という、ちょっと楽しみな組み合わせとなっていた。
Aは極度に緊張するタチで、試合前になるといつも夜中に泣くという感じ。実力は高いものの、その緊張が邪魔して実力を発揮できずに敗退することが多い。
そして今回。
Aは今までより緊張度が少ないように見え、実際の試合でも自分の動きができていた。しかし、相手はAより体重が重く、パンチが強い。延長の末、最後の最後でスタミナが切れ、Aは初戦敗退となった。

R君は、無事に初戦を突破したものの、強いパンチが出ておらず、セコンドについた上記の師範代は不満気であった。
ところで、この師範代は最近の試合で全日本王者に輝いた人で、大変な実力者。このような人がセコンドにつくとは、LちゃんやR君は心強いだろう。

R君の二回戦は、初戦でAが敗北した相手。相手はR君より体重が重く、パンチが強い。私は、一回戦で強いパンチが出ていなかったR君が正面から打ち合うのは危険と思い、道場は違えど一緒に練習している仲間としてR君に「正面に立つと危ない。動いて攻撃した方がいい」とアドバイスをした。
そしてR君の二回戦開始。
案の定、相手は強いパンチを武器に押してくる。私は『このままでは分が悪い…』と思ったが、R君の師範代は「パンチで攻めろ!パンチで勝て!」と指示を送った。いわば私のアドバイスと反対とも言える指示を師範代は送ったのだ。そしてその指示を受け、パンチが強い相手にR君は果敢にパンチで勝負し、ついには勝利した。


さすが全日本王者の視点は違う
初戦で強いパンチが出ていなかったR君に対して、師範代は次戦で「パンチで勝て」と指示した。おそらく師範代は、R君がこれからも試合に出場して活躍するためには、R君の課題である“強いパンチ”で相手に勝つということが必要だと考え、あえてパンチの強い相手との対戦でこの指示を出した。これは競技者にとって必要なメンタルで、どんなに強い相手でもそれをはね返す気概が根底になければ上には登れない。師範代はこの辺りを考えて指示を出したものと考える。

どちらの試合も師範代の的確な指示とそれを実行できる選手の実力、この二つがあって手にできた勝利だった。
今回の大会で私は、試合のテクニックを学ぶと同時に、格闘技に必要な“気持ちで負けない”ということを思い出させてもらえた。
武道は闘う相手が自分だが、武術(格闘技)は戦う相手が他人。戦う相手が他人である以上、相手を上回る気持ちは絶対的に必要なことであり、格闘技の本質であると思う。
そんなことを思い出させてもらえた今回の大会は、私にとって良き大会になった。