1年ぶりに型の試合に挑戦したある道場生の話

1年ぶりに型の試合に挑戦したある道場生の話

昨年以来の挑戦
昨年2月、ある型の試合に出場した、現在小学4年生の男子道場生Rがいる。その昨年の試合の様子はすでに記事にしたので、そちらを参照されたい。
簡単にその時のことを述べると、当時小学2年生だったRは、初めての型の試合で緊張がマックスだった。会場に入ってくる時にはすでに母親に抱きついて泣きじゃくり、『今日はダメかも』と思わせた。
試合が始まる直前になんとか落ち着き、入賞こそ逃したものの、立派な演武で4位を獲得した。それがRの自信になり、その後の練習でも基本稽古から真剣さが大きく増した。
そんな風に、昨年の型の試合がRを成長させてくれたのだった。
そうして成長したRが今年3月(試合時は3年生)の型の試合に挑戦した。

特訓の日々
試合までの期間、通常練習に加えて日曜日に特訓を重ねたR。特訓は昨年の試合前にも行っていたが、昨年は特訓の時からどこか“うわの空”という感じで稽古していた。
今年はどうかというと、特訓時にも真剣に稽古し、メキメキと上達した。
挑戦する型は決して簡単ではない型で、小学3年生がやるには難易度は高い。しかし、“今のRならできる”と踏んであえて挑戦させた。その期待にちゃんと応えて、Rは難しい挙動もできるようになっていった。
試合当日。昨年の試合では、会場に入る時にはすでに泣きじゃくっていたが、今年はどうだったかというと…朝早かったためちょっと寝ぼけまなこであったが、余裕と自信に満ちた表情であった。この一年でなんとも頼もしい男になったものだ。
試合開始前、コートに入って直前練習をするR。若干緊張して周りを気にしている様子もあるが、練習通り仕上がりのいい型を披露した。

試合の結果は…
いざ本番。Rは3試合目で早々に順番が来た。試合は2人対戦形式で、1人ずつ順番で披露する。そしてRは先攻。
緊張もほぐれていないうちに自分の出番。『大丈夫か?』と思ったが、Rは私が見る限り過去最高の型を堂々と披露した。練習通り、いや、練習以上の型だった。私は『勝った』と思った。
相手選手は小さい女の子(おそらく2年生くらい)で、あとはその相手選手の型を待つのみ。
相手の型演武が始まり、その型を見た瞬間、『あ…』と思った。相手選手の型は“征遠鎮”。非常に難易度の高い型で、重厚感があり黒帯がやるような型。
相手選手が披露した征遠鎮は、正直完成度はそこまで高くはなかったが、無難に披露した。
結果はRの敗北。内容では決して負けていなかったが、型そのものが持つ重厚感にやられた感。
『まさか小学低学年で征遠鎮をもってくるとは…』
私は自分の甘い判断を悔やんだ。

楽しみな成長
しかし、ある面ではとても満足していた。Rの披露した型が練習以上であったこと。そしてなにより、昨年の大会では泣きじゃくって試合に出られるかすら危ぶまれたあのRが、堂々と自信満々で素晴らしい型を演武したことに、私はとても満足していた。
昨年の大会で4位になったことがRに自信を持たせ、それからは稽古にも真剣さが増し、大会前の特訓にも励み、大きく成長したR。
子供は色々なことを経験して大きく成長することを改めて実感した。

来年は難易度の高い型でリベンジしてくれるだろう。そして、今よりももっともっと大きく成長した姿をRは見せてくれるだろう。