保護対象だったはずの子
私は割と子供が好きだ。子供を見ると、他人の子でも自動的に保護対象になってしまう。※変な意味ではなく、何かあれば優先的に守らねばという感覚。
以前よりこの闘気塾日記で度々書いているが、私は組手が苦手な子でも空手を楽しめるようにしたいと試行錯誤している。その結果、組手が苦手な子には“当たらない組手”や“軽い組手”をさせている。
また、組手に挑戦した結果、痛い思いをしてしまった子には、無理をさせず休ませるなどしている。
それは、上記の“保護対象感覚”に因っているところもある。
まぁ簡単に言えば、ただ甘いのだ。
ところが最近、今まで無理をさせない対象だったはずの子が、積極的に組手や試合に挑戦しだして驚いている。
反脆弱性
と、その前に「反脆弱性」という言葉。ご存知の方が多いかと思うが、一応紹介したい。
反脆弱性とは、作家であり金融の専門家であるナシーム・ニコラス・タレブ氏が著作で提唱した概念で、端的に言えば「外圧を受けるとパフォーマンスが上がる性質」らしい。
私はこの言葉を山口周氏の著作で知ったのだが、その本で出ていた反脆弱性の一例は“炎上マーケティング”。
「炎上というのは間違いなく主体者にとってはストレスでしょうが、そのストレスによってかえって集客や集金のパフォーマンスが向上する」とあった。
反脆弱性とはそんな概念。
保護対象だったSちゃん
で、話を戻します。
上記の保護対象の子“Sちゃん”の、組手や試合に挑戦しだした経緯を紹介したい。
Sちゃんはもともとマイペースで、練習も来たり来なかったり。練習に来てもイマイチ真剣さも楽しさも感じられない。
そんなSちゃんを見かねて、お母さんが説得して初試合に出させた。持ち前のマイペースさを発揮して、意外にも優勝した。
ここで少しだけ楽しさを覚えたようだったが、それでもまだなんとなくでやっている感じがある。
ちょっと変化が表れ始めたのは、練習会に参加してからだった。
参加した練習会には同世代の強い子もいて、Sちゃんは痛い思いをして開始早々に泣いて離脱した。
『次の練習、来るか怪しいな』と心配したが、その後も割ときちんと練習には来た。
そして友好道場の合宿に参加した時、Sちゃんに練習試合をさせたが、ここでも強い相手の攻撃をもらって途中棄権した。
その頃から立て続けに試合の申込書を持ってくるようになった。そして、Sちゃんのお母さんによると「最近空手が楽しい」と言っているとのこと。
練習で痛い思いをしたことが、悔しさや挑戦する気持ちを喚起し、空手の楽しさを実感する。
このケースも反脆弱性と言えるだろう。
大切なのは
私は少し指導に対する考え方を改める必要があると感じた。
組手が苦手な子を全面的に保護するのが正解ではなく、“日々の練習で少しずつ挑戦する気持ちを持つ”ことが大切なのかもしれない。
そしてその先に、試合に挑戦したり空手を心から楽しめたりするのかもしれない。
さて、明日はSちゃんの試合。
足を痛めているので「無理しなくていいよ」と言ったが、合宿の練習試合で負けた子が対戦相手と知ると「リベンジしたい」と出場を申し出てきた。
どんな結果になるか分からないが、子供の“反脆弱性”を信じてみよう。押忍
翌日、記。
Sちゃん、リベンジならず…。でもよく頑張った。