内気な女の子
現在、小学5年生の女子道場生A。先にやっていた兄の影響で小学3年生から空手を始めた。
元々とても内気な子で、空手も二回ほど体験しては「やっぱりやめます」を繰り返し、母親と私を苦笑いさせた。
三回目でようやく定着して今に至るが、当初から内気ぶりを発揮し、「試合には出ない」と言い張っていた。
ところが、兄と同じで型は好きになったようで、初めての試合は3年生の3月の型の試合だった。
しかしここでも内気ぶりを発揮し、初めての舞台で緊張して思考がストップ。一回目の演武で審判の前で止まってしまい、何もせず退場することになった。二回目の演武ではなんとか型を披露し、周りを安堵させた。
「試合には出ない」と言い張っていたAが試合に挑戦するだけでも立派なことで、母親も私も当時は『この子はこれでいいんだ。大きな事ができなくてもちょっとずつ成長すればそれでいい』という考えだったのを覚えている。
その後も型の試合には挑戦し続け、本人2回目の型の試合では2回戦敗退、3回目の試合では準優勝と、着実に実績を挙げるようになった。
ある日、周りが少し驚くような事を言った。「組手の試合に出る」。
それを聞いた私は『大丈夫か?』という感じであったが、本人の挑戦する気持ちを尊重して出場させた。
案の定、組手デビュー戦は一回戦敗退。周りは『挑戦するだけでもすごいこと』と励ましたが、本人は意外にも「悔しい」と泣いていた。
大舞台での激闘
そんな感じでちょっとずつ成長を重ねたAが、つい先日3月26日に県内最大級の組手大会のチャンピオン(上級)クラスに出場した。
『さすがに上級クラスは厳しいか』と思ったが、級の縛りで仕方なかった。
大きい舞台に圧倒され、一回戦から激しく緊張していたA。ポイントは作戦通り動けるかどうかだった。
スタミナに不安があるため、最初から全力で動くのは危険。自分の得意技に特化して試合を進め、最後に大技を狙うか力を使ってラッシュをかけるかという作戦。
試合が開始されると相手が激しく突きを繰り出し、前に押し出てくる。これに付き合ってしまうとスタミナを使うことになるので、一瞬不安がよぎる。
しかし、Aは意外にも冷静で、自分の得意技を繰り返して対抗していた。
そして終了間際、相手の隙を狙って放った一発の上段回し蹴りがヒットし、見事に勝利した。
二回戦目も同じ作戦で見事に技有りをとって激闘を制して勝利し、決勝戦へ。
決勝戦の順番待ちの際、初めて味わう大舞台とプレッシャーで、今にも泣きだしそうな顔をし、「怖い」を連発していたA。
そして試合開始。勇気を奮い起こして立ち向かうも、一回戦二回戦の激闘でダメージが激しかった腹に突きをもらい、耐えられず技有りを取られて終了。結果は準優勝となった。
退場後、母親に抱きしめられながら泣きじゃくるAの姿が印象的だった。
成長のチャンス
今でも内気で人見知りなA。体験の時からすぐに心が折れていたA。「試合には出ない」と頑なに言っていたA。初めての試合は何もできなかったA。
そんなAが、ちょっとずつ成長を重ね、大舞台で堂々と闘って準優勝を勝ち取る姿は、周りを感動させるにあまりあるものだった。
子供はいつどのように成長するか分からない。
指導者や保護者にできることは、楽しむ環境と機会を与え続けられるか。そして成長のチャンスを与え続けられるか。
表彰台に立つAの姿はそんなことを教えてくれた。